こんばんは。一ノ瀬そらです。
いつもは、きなこがこのブログを書いています。
でも今日は、私が書くことになりました。
きなこから頼まれたわけではありません。
むしろ、これを見せたら少し恥ずかしがると思います。
きっかけは、机の引き出しを整理していたときに見つけた、一枚の古い紙でした。
端が少し丸くなった、小さな手紙。
そこには、子どもの字で短い言葉が書かれていました。
「明日も一緒に帰ろう」
差出人の名前はありません。
でも、誰が書いたのかは、すぐに分かりました。
引き出しの奥に残っていた手紙
手紙を持って、隣のきなこの家へ行きました。
部屋に入ると、きなこはベッドに座ってゲームをしていました。
きなこ、これ覚えてる?
何、その紙。
昔、きなこからもらった手紙。
私から?
『明日も一緒に帰ろう』って書いてある。
……私の字?
うん。たぶん小学生の頃。
全然覚えてない。
そうだと思った。

きなこは手紙を両手で持ち、しばらく眺めていました。
何度か裏返してみても、思い出せないようです。
私は、その手紙を受け取った日のことを覚えています。
一人で帰ろうとしていた日
小学生の頃の私は、人と話すことが得意ではありませんでした。
休み時間も、教室の端で本を読んでいることが多く、誰かの輪に入ろうとは思いませんでした。
一人でいるほうが、楽だと思っていたからです。
その日の帰りも、私は一人で昇降口へ向かいました。
外は曇っていて、校庭から吹いてきた風が少し冷たかったのを覚えています。
靴を履き替えて外へ出ると、後ろからきなこが走ってきました。
「そらちゃん、一緒に帰ろう」
きなこは、いつものようにそう言いました。
私は、先に帰っていいと答えました。
一人でも大丈夫だったし、きなこにはほかにも一緒に帰る友達がいたからです。
でも、きなこは帰りませんでした。
私の隣に立って、当たり前のように歩き始めました。
きなこは理由を聞かなかった
帰り道で、きなこは私が一人でいた理由を聞きませんでした。
学校で何かあったのかとも、寂しくないのかとも聞きませんでした。
昨日見たアニメの話と、帰ったら何のゲームをするか、それから道端で見つけた変わった形の石について話していました。
ほとんど、きなこが一人でしゃべっていたと思います。
私は短く返事をするだけでした。
それでも、家の前に着く頃には、朝より少しだけ気持ちが軽くなっていました。
別れ際、きなこはランドセルから折り畳んだ紙を出して、私に渡しました。

家に帰ってから開くと、書かれていたのがあの言葉です。
「明日も一緒に帰ろう」
約束というより、明日の予定を確認するような書き方でした。
私が断るとは、少しも思っていなかったのかもしれません。
覚えていなくても、変わっていない
私、こんな手紙を渡したんだ。
うん。
もう少し、ちゃんとしたことを書けばよかった。
十分だったよ。
これだけで?
これだけだったから、よかった。
よく分からない。
きなこは、分からなくてもいい。
私の話なのに。
私が覚えてるから。
……そっか。
きなこは、困っている人を助けようとするとき、大げさな言葉を使いません。
何があったのかを無理に聞くこともありません。
ただ隣に来て、いつもと同じように話します。
本人は、それを特別なことだと思っていないのだと思います。
だから、昔の手紙のことも忘れていました。
でも、あの頃と今で、きなこはあまり変わっていません。
朝に弱くて、少しめんどくさがりで、好きなゲームを始めると時間を忘れます。
それでも、誰かが一人でいると、気づけば隣に座っています。
今度は私が覚えておく番
手紙は、私の引き出しへ戻しました。
きなこは「そんなに大事なものなら、もっときれいな紙に書き直そうか」と言いましたが、断りました。
新しく書き直したら、あの日の手紙ではなくなってしまうからです。
少し折れていて、文字もまっすぐではなくて、名前も書かれていない。
それでも、私にとっては大切な一枚です。
じゃあ、今日も一緒に帰る?
今は、お互いの家にいるけど。
一回外に出れば帰れるよ。
帰るために外へ出るの?
昔みたいに、少し遠回りして。
……それなら、いいよ。
あの日、きなこが手紙をくれなかったとしても、私たちは今も一緒にいたのかもしれません。
でも私にとっては、あの短い言葉が始まりでした。
きなこは、たぶん自分がしたことを覚えていない。
でも私は、あの日からずっと覚えています。




